3. 実測結果

3.1 測定方法
 サンプリング・ジッターの測定は、CDあるいはDVDプレーヤにてCD-Rに記録した測定信号を読み取り、プレーヤ内蔵DACあるいはディジタル接続したDACから再生したアナログ信号を、ADCで変換した後のディジタル信号である観測信号に対して行った。パソコン用サウンドカードの場合は、測定用ディジタル信号を再生用ソフトウェアを用いて再生したものをADCでディジタル信号に変換したものを観測信号とした。プレーヤ測定時の接続は、Fig.1に示した。


 測定系において想定されるジッターの発生部所は、Fig.1内においては、メディア読み取り部、クロック発振回路、ディジタル信号伝送経路、ADC、DACであり、それぞれの部所で発生するジッターは、部所を経るごとに積算されていく。そして、ジッターを測定する元となる観測信号は一旦アナログ信号となったものをAD変換した後に得られるため、特定の部所だけで生じるジッターを直接測定することは不可能である。よって、注目したい部所のメディアあるいは機器を複数入れ換えて測定を行い、結果を比較することによって、その部所で生成されているであろうジッターの様相を調べることが可能となる。
 本稿では、合計二十余りのディジタルオーディオ機器を組み合わせて行った測定の結果得られたジッタースペクトルの中から、特徴的な結果が得られたもののみを示す。ここで取り上げた機器については、Table1に特徴と略号を示した。ここでは特に触れない限り、プレーヤとDACの接続は、光ケーブルを用いた結果である。


 測定の結果得られるジッター波形について、1秒間のHanning窓掛け後にFFTを行い、これを0.5秒づつずらして5秒間の平均スペクトルを求めた。測定系のノイズレベルが高品位なディジタル機器において典型的な-130dBFS/Hz以下である場合、純音信号を用いたジッター振幅検知限は数ps〜数10ps程度である。測定用音楽信号は過去の測定[7]と同じくRWC-MDB-2001No.2[10]を用いた。この場合のジッター振幅検知限は3ns[7]であるが、それを越えるジッターは、音楽、純音いずれでも観測されなかったため、純音による測定結果のみ示す。全ての測定結果の再現性は高かった。

3.2 CDプレーヤとDAコンバータ
 Fig.2にはCDP1内蔵DAC再生時のジッタースペクトルを示した。CDP1 内蔵DAC(DAC1)は外部ディジタル入力の再生も可能であり、Fig.3には、CDP2の読み取ったディジタル信号をDAC1にて再生時のジッタースペクトルを示した。Fig.4はCDP3の読み取ったディジタル信号をDAC1に入力して再生した結果である。これらを比較すると、同じDACを用いてもクロック源が異なるとジッター特性に明らかな違いが存在することが分かる。






 内蔵DACと外部DACを比較するため、Fig.5にはDVD-Audioプレーヤ(DVDA1)にて内蔵DACから再生した結果を、Fig.6にはDVDA1のディジタル出力を、DAC2にて再生した結果を示した。これらの比較より、DAC2とディジタル伝送系は、約200Hz以下のジッター成分を増幅し、それ以上のジッター成分を抑圧しているものと考えられる。




 また、Fig.7にはCDP2内蔵DACを使用して、直接ADC1で記録した場合のジッタースペクトルを示した。これとFig.3を比較すると、CDP2については、直接アナログ出力する場合(Fig.7)より、外部のDAC1にディジタル接続を行った方(Fig.3)が、ジッター量は多いことが分かる。


 また、Fig.8には、CDP3内蔵DACを使用して、直接ADC1で記録した場合のジッタースペクトルを示した。こちらの場合は、さきほどの例とは逆で、外部のDAC1にディジタル接続を行った場合(Fig.4)の方が、全体的なジッターノイズフロアが低いことが分かる。


 これらの結果をまとめると、もともと内蔵DACを使用したときのジッター量が少ないプレーヤ(CDP2,Fig.7)に関しては、外部DACにディジタル出力を行うと、ジッター量が増す(CDP2→DAC1,Fig.3)場合がある、ということである。一方、内蔵DACのジッター量がある程度大きいプレーヤ(CDP3 Fig.8)に関しては、外部DACを用いることによって、 ジッター量を低減できる(CDP3→DAC1Fig.4)場合もある。さらに、同じDACを用いても接続するプレーヤが異なるとジッタースペクトルも異なること(Fig.2〜4)から、プレーヤのクロックジッター特性とDACのジッター特性は重畳される関係にあることが確認できる。

3.3 携帯CDプレーヤ
 いわゆるオーディオマニアの一部には、AC電源の質に拘る傾向が見られる。ただし、その科学的根拠は乏しく、プラグやケーブルを高品質なものに交換したことによる計測可能な電気的影響や音響的影響は、いまだ明らかになっていない。また、AC電源からの悪影響を逃れるために、DC電源(直流バッテリー駆動)を、特にCDプレーヤに求めるマニアも存在する。携帯CDプレーヤは、充電池による駆動と、AC-DC変換器を使用したAC電源駆動の両方が可能なため、電源によるジッターへの影響を調べるために、双方の電源状態において測定を行った。Table1のCDP4が、その携帯プレーヤである。
 結果としては、電池駆動と、AC-DC変換器を通したAC電源駆動では、内蔵DAC、外部DACを使用した場合のいずれも、得られたジッタースペクトルにほとんど差異は無かった。このため、それらの結果はここには示していない。内蔵DACと外部DACの違いを見るために、Fig.9にCDP4のアナログライン出力をADC1で記録したときのジッタースペクトルを、Fig.10にCDP4の光ディジタル出力をDAC1に入力し、ADC1で記録した時のジッタースペクトルを示した。これらの結果を比較すると、プレーヤ内蔵DACを使用した方が、外部DACを経由した場合に比べて、明らかにジッターが少ないことが分かる。これは前節において、CDP2の内蔵DACを用いた場合(Fig.7)とCDP2のディジタル出力をDAC1に入力した場合(Fig.3)の比較において、前者のジッター量が少なかったことと、同じ傾向である。





3.4 DVDプレーヤ
 DVDA1において、音声トラック(24bit,96kHz,2-ch)に純音信号が記録されたDVD-Videoディスクを再生して得られた測定結果をFig.11に示した。また、同じプレーヤにおいて、DVD-Audioフォーマット(24bit, 96kHz, 2-ch)にて記録を行ったDVD-Rディスクを再生して得られた測定結果をFig.12に示した。これらと、Fig.5に示したCD-R再生時の測定結果を比較すると、3者で明らかにジッタースペクトルが異なることが分かる。この違いの原因が、メディア、記録フォーマット、プレーヤのDACを駆動するサンプリングクロックのいずれであるか現時点では明らかでない。





3.5 パソコン用オーデ ィ オ機器
 パソコン用サウンドカードには、ジッター以外にもノイズや歪みが聴感上明らかに目立つ製品も多い。一方で、安価ながら高品質な製品も存在し、一般オーディオ機器と同程度かやや多いジッター量のものもあった。Fig.13には、市販価格4000円程度のPCIサウンドカード(サンプリング周波数48kHz)で得られたジッタースペクトルを示した。


 さらに、高級な製品はDAC/ADCチップに高級オーディオ用と同じものを採用したものもあり、そのような機器のジッター量は一般に低かった。今回の測定で主に使用したADC1は、アナログ信号入出力部をPCIカード外に持つパソコン用オーディオカードであり、そのDAC部にはDAC3とラベリングした。Fig.14には、2台のパソコンにそれぞれ1枚づつこのオーディオカードをインストールし、一方のDAC3出力をもう一方のADC1で録音したときのジッタースペクトルを示した。なお、測定はサンプリング周波数48kHzと96kHzで行ったが、結果に大きな違いは無かった。Fig.14には2kHz付近に30ps程度のピークが見られるが、他の測定において、ADC1を使用した測定結果(Fig.2〜12,16〜21)には、そのようなピークは見られないことから、これはDAC3におけるジッター特性であることが分かる。



3.6 信号に依存するジ ッ ター: J-test signal
 Dunnら[11,12]は信号のビットパターンに周期性のある特殊な信号(J-test signal)を再生する際にサンプリング・ジッターが生じることを指摘している。それは主としてディジタル信号伝送経路のローパス特性によって、信号になまりが生じ、ビットクロックに偏差が生じることが原因である。
 Dunnらが示したJ-test signalは、AES3規格のディジタル信号において、24bit精度の最大振幅の半分と最小振幅の半分を4サンプル周期で繰り返す信号(搬送波)に、192サンプル周期で振幅ゼロと-1LSBを繰り返す信号(変調波)を足し合わせた信号である。AES3規格はEIAJ CP-1201と同じであり、付加ビット情報以外は、コンシューマ用のS/PDIFと同じビット表現を行う。AES3規格ではディジタル信号は2の補数で表現されるため、この信号を16進数表現すると、

0xC00000 0xC00000 0x400000 0x400000(X 24)
0xBFFFFF 0xBFFFFF 0x3FFFFF 0x3FFFFF(X 24)

 の繰り返しとなる。左右チャンネルにこの同じ信号が用いられる場合、AES3規格において、192サブフレーム(=1ブロック)は、ほとんど0ビット値のみ、次の1ブロックはほとんど1ビット値のみ、の信号が繰り返されることになる。
 AES3規格において1サブフレーム32bitのうち、最初のプリアンブル部(4bit)を除くビット値は、ビット境界で必ず電位が切り替わるバイフェーズ方式でエンコードされるため、理想的な0ビットデータ値の連続と理想的な1ビットデータ値の連続は、それぞれFig.15上と中の実線によってその電位変化が表される。


 一般に、DACに外部から入力されたAES3信号からクロック信号を抽出する際には、ビット境界の電位ゼロクロス時刻(ビットクロック=サンプリング周期の64分の1)を利用し、これを時間平均するような仕組み(PLL回路)によって、ビットクロックの細かなジッターを抑圧したサンプリングクロックを生成する。ディジタル伝送系にアナログローパス特性が加わったとすると、伝送されてくるディジタル信号波形はFig.15下の点線のようにそれぞれ変化し、0ビット値信号の方が1ビット値信号よりゼロクロス時刻が遅れてしまう。よって、変調波の周波数と等しい矩形ジッター波が生じる。なお、ここではその効果を分かりやすく示すため、極端な例としてローパスフィルタとして時定数200 nsのRC積分器を用いている。
 J-test信号の周期は192サンプル以外でも、変調周波数が異なるだけで、大きな違いはない。そして、このようなビットパターンを持つ信号はAES3規格信号のうち最もサンプリング・ジッターが発生しやすい極端な例である。
 今回の測定では、AES3規格での24bit信号を伝送し受信するオーディオ機器が無かったため、16bit信号により生成したJ-test信号を測定用信号として用いた。1周期を200サンプルとしたとき、データ領域にAuxiliary領域を含めた24bit分の16進数表現は、

0x00C000 0x00C000 0x004000 0x004000(X 25)
0x00BFFF 0x00BFFF 0x003FFF 0x003FFF(X 25)

 となるが、依然としてビットパターンのアンバランスは保たれる。また、搬送波がサンプリング周波数の1/4のみの場合は、ジッター測定結果には、測定系に存在するノイズ成分の影響を受ける[5]ため、搬送波をサンプリング周波数の1/6としたJ-test信号も用いて測定を行い、それらに共通するジッタースペクトル成分を得た。変調波の周期は100サンプルと200サンプルの2種類で測定を行ったが、周期の逆数となる周波数に現れるジッター成分振幅に大きな違いは無かった。そこで、以降は100サンプル周期の結果のみを示す。
 プレーヤとその内蔵DACを用いるとき、441Hz(周期100サンプル)にノイズフロアのジッター成分より強いジッター成分を検出できたのはCDP1だけであり、CDP1において、J-test信号を再生したときのジッタースペクトルをFig.16に示した。ディジタル伝送系を含んだ測定系において、J-test信号を用いた測定結果は次節に示した。



3.7 ディジタルケーブル
 CDプレーヤとDACとの接続において、コンシューマ市場では同軸ケーブル(S/PDIF)と光ケーブル接続(TOSLINK)が一般的である。先に示したFig.3はCDP2とDAC1を光ケーブルで接続した場合の測定結果であり、それらを同軸ケーブルで接続した場合の測定結果であるFig.17と比較すると、ジッタースペクトルにはかなり違いが見られる。これは測定結果の中でも極端な例ではあるが、接続方式によってジッタースペクトルはしばしば変化した。


 ディジタル同軸接続用ケーブルとして、中級品(長さ3m)のディジタルオーディオ用ケーブル、アナログ音声信号用オーディオケーブル(長さ7m)を比較したところ、純音信号を用いた測定結果に違いはほとんど見られなかったが、J-test信号を用いた測定では、変調波の周波数に現れるジッター振幅がアナログ音声信号用オーディオケーブルを用いた場合に2倍ほど大きくなることが分かった。Fig.18にディジタルオーディオ用ケーブルを用いたときの測定結果を、Fig.19にアナログオーディオケーブルを用いたときの測定結果を示した。




 これはアナログ音声信号用オーディオケーブルの特性インピーダンスが110Ω程度であり、ディジタルインタフェース間のインピーダンス不整合がおきてディジタル信号波形が変形し、サンプリング・ジッターの原因になっていると考えられる。J-test信号は、そのような伝送経路の状態を、測定結果に反映しやすい信号だといえる。

3.8 CD-Rメディアによる影響
 CDプレーヤの場合、メディア要因およびデータ読み取り部においてジッターが生じやすいと通説的には唱えられている。そして、インターネット上では、メディア上のピットを読んだ際のRF信号におけるアイパターンに含まれるジッターの様相が、メディアによって変化するデータ1も公開されている。もっとも実際には、読み取られたデータはCIRCデコード後にバッファメモリに蓄えられ、アイパターンの読み取りを制御するクロックとは別の水晶精度のクロックを分周したサンプリング・クロックを用いてアナログ波形に変換されるため、原理的にはデータ読み取り時のジッターは、アナログ再生音に影響を与えないと考えられる。しかし、データ読み取り時の制御回路やエラー訂正回路の働きが、それ以外のディジタル回路の動作にも電気的な影響を与え、サンプリング・クロックにジッターを生じさせるという考えもある。
 プレーヤにおいて、C1/C2エラー(訂正可能な読み取りエラー)が生じる条件で、ジッター特性が変化するかを調べるために、CD-Rメディアの記録面に、中心で90度に交わるカッターナイフによる4本の傷を与えたものを用いて測定を行った。再生音には、傷によって原データに回復不能であったときに生じるパルス状のノイズが部分的に混入する。よって、そのようなノイズが混入していない部分では、エラー訂正が成功裏に行われていることは明らかである。ノイズが混入しなかった5秒間の観測信号について測定を行ったが、いずれの機器条件でも傷のないメディアで得られた測定結果と同じ結果が得られた。今回の測定対象機器では、エラー訂正によってジッターは生じなかったといえる。
 CD-Rメディア要因としては、記録面材質、記録速度、記録位置、メディア製造メーカなど様々な要因が挙げられ、それらが測定対象機器の組み合わせに依存することも考えられるため、測定条件の組み合わせは膨大な数にのぼる。ここでは、同じパソコン用CD-Rドライブを用いて記録したシアニン色素CD-Rについて、等倍と6倍速の記録速度の違いと、メディア銘柄の違い(製品を供給しているOEM元のメーカは同じであるが、ディスク銘柄と販売メーカはS社、T社と異なる)を比較した。
 記録速度の違いによってジッター特性は影響を受けなかった。しかし、販売メーカが異なる2種のメディアについては、CDP2をDAC1あるいはDAC2に対して同軸あるいは光接続した場合のみ、ジッタースペクトルに明らかな違いが生じた。Fig.20の上に、CDP2をDAC2に光接続した測定系において、等倍速で記録したS社メディアを用いた測定結果を、了解性のためにジッター振幅を10倍して示した。Fig.20の下には、同じ測定系において、T社メディアを用いた測定結果を示した。約50Hz以下の帯域で、双方のジッタースペクトルは異なり、全体的にS社メディアの方がジッター成分が多い。


 その他のメディア要因としては、CD-Rのラベル面へのガムテープ添付による偏重量や、中心穴をカッターで1方向のみ削って広げる偏心、信号の記録位置(メディアの外周と内周)といった要因をテストしたが、明らかなジッター特性の変化は得られなかった。

3.9 経年変化
 同じ測定機器について、同じメディアを再生して測定を行った場合、測定の時間間隔が1時間以内程度であれば、測定の再現性は非常に高い。しかし、それ以上の時間スケールで、測定時間間隔があいた場合、ジッター振幅はほとんど変化しないがジッター周波数がわずかに異なってくることがある。さらに、それ以上、測定時間間隔が開いた場合、振幅、周波数いずれも変化する場合がある。Fig.21には、CDP2をDAC2に光接続した測定系において、前述のT社の同じメディアを使用して、6ヵ月後にどのようにジッタースペクトルが変化したかを示した。6ヵ月後には、当初なかった15Hzに113psのジッター成分が現れている。このジッター成分はDACやADC、CD-Rメディア固有のものではないことが、同時期に行った他機器の測定結果より明らかなため、CDP2とそのディジタル伝送系の経年変化と考えられる。このような明らかな経年変化は、他の測定対象機器には見られなかった。



3.10 機器への外的要因
 CDP1を内蔵DACを用いて再生した場合、ADC2にて測定を行った場合のみ、26Hzのジッター成分が現れた(Fig.22)。同じADC2を用いて測定した他のCDPおよびDACには、このジッター成分は認められなかったため、電源あるいはアナログ信号線を通じたADC2とCDP1との相互干渉などの外的要因による影響と考えられる。