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9.環境中での放射線量及び放射性物質の測定結果

ここで、環境中での放射線量のデータについて、見てみよう。都内では、新宿区百人町の健康安全研究センターにおいて、大気中の放射線の量(ガンマ線)を、モニタリングポストと呼ばれる据え置き型の装置(シンチレーション検出器)で、1年を通じ24時間連続して測定を行っている17)。この結果の一部を図8に示す。この結果を見ると、1時間毎の値の最大値は2011年3月15日10時の0.496μGy/hであるが、日平均値での最大値は3月23日の0.146μGy/dayである。3月15日のピーク値は放射性物質の雲が通り過ぎたことによるものであり、3月22日以降の高い値は3月21−22日の雨により沈着したもので、現在もその一部が地表にとどまっているものと思われる。

表8に気象庁(大手町)での気象データを示す。3月15日は雨量0mmであり、雨量計には溜まらない程度の僅かな降雨があったことが分かる。21日には日雨量20mmの降雨があり、この日に最も多くの放射性物質が降下したものと思われる。

図8 新宿(百人町)での環境放射線量測定結果 表8 気象庁日ごとのデータ

これと同じようなデータは、千葉市稲毛区の日本分析センターでも得られており23)、このデータを見ると、新宿区百人町のデータと比較して、3月15日のピーク値では約1.5倍、3月21−22日のピーク値では約2倍の線量を示している。この結果より、3月15日には放射性物質のプルームの中心がより近くを通過したことが分かる。3月21−22日は降雨強度との関係があり、この結果のみからでは断定的なことはいえない。

東京都内では空間放射線量(環境中での吸収線量)のみではなく、大気中に浮遊している放射性物質(具体的にはヨウ素とセシウム)の濃度も測定されている18)。東京都立産業技術研究センター駒沢支所が世田谷区深沢で測定している浮遊粒子状物質中の放射性物質の中からヨウ素131のデータを図9に示す。この結果を見ると2011年3月15日、午前10時ごろに最大値となっており、これは新宿区百人町で空間線量率が最大となった時間とも一致している。しかし、図9では、新宿区百人町で日平均値が最大となった3月21−23日のピークは小さいことがわかる。この結果より、3月21−23日に高い値を示した放射性物質の大部分は、粒子として沈着したのではなく、雨(降水)によってもたらされたものであることを示している。このことからも、大気中の放射性物質濃度が高いときに、雨量が多かった地域では、沈着量が多くなると考えられるので、地表近くの線量の精密測定が必要であろう。

軍縮・不拡散促進センター(CPDNP)が高崎CTBT放射性核種探知観測所において放射性核種の探知を行っており、2011年3月19日以降にその状況を順次、発表している19)。この中で、当初の発表資料には含まれていた幾つかの核種についてのデータがその後の資料からは消去されているなど、物議を醸している。ここでは、4月23日の発表資料を表9に示す。世田谷区深沢の資料は限られた核種について、比較的に短い捕集時間でのサンプル(高濃度時は1時間のサンプリング)を分析している。一方、高崎では、原則24時間捕集のサンプルについて、多くの核種の分析を行っている。このような複数の核種についての詳細なデータを分析することにより、世界中の何処かで行われた核実験の詳細を推測できる。また、同時に、原子力発電所の事故時のデータを解析することにより、これらの放射性物質が放出されたときの原子炉の状態を推測することも可能である。ここで注目される記述は以下の点である。

図9 東京都立産業技術研究センター駒沢支所での浮遊粒子状物質中のヨウ素131の濃度 表9 高崎CTBT放射性核種探知観測所における放射性核種探知状況

資料19)より引用すれば、「これらの放射性核種は、福島原子力発電所事故を起源とするものと考えられるが、3月12〜14日の間に捕集された大気中に含まれていたかどうかは不確かであり、大気捕集後の測定中(15日以降)に飛来して検出器及びその周辺を汚染し、検知されたものではないかと見られる。したがって、観測された放射性核種は定性的には正しいが、その濃度については正確な測定値を示していない。」とのことである。一般的に、このような試料は、自然界の放射線による汚染(コンタミネーション)を防止するために厳重に管理されているはずである。それにも拘らず、汚染が生じたということは、データが発表されていない3月14〜15日の濃度がいかに高かったかということを示唆しているようにも思われる。また、コンタミネーションの程度から、この期間中の濃度を推定できるかも知れない。

東京(世田谷)及び高崎の空間線量が最も高くなった3月15日の関東地方での降雨の状況を見ると、3月15日の夕刻から16日の早朝に北関東で降雨があり、3月15−16日の積算雨量の分布は図10に示すようになる。群馬県北部では、東京の21日と同じ10mm程度の降雨があったことから、図9に示す大気中濃度と図8に示す空間線量率の比率から、この地区での放射性物質の湿性沈着量を推定できる可能性もある。

その後、文部科学省は9月27日に地表でのセシウム134、137の蓄積量の分布データを公表した。この結果をasahi.com24)より転載して、図11に示す。この両者を比較すると、北関東での分布はよく対応していることが分かる。また、0.5mm程度の降雨があった千葉県北東部から茨城県南部にも高汚染地域が存在することが分かる。

図10 AMEDAS降水量分布 図11 文部科学省が9月27日の公表したセシウム134,137の蓄積量

千葉県環境研究センター(市原市)では、降下物(チリ、雨水、等)中の放射性物質の分析を行っている。ここでの核種分析結果を図12に示す。降雨のあった3月21−23に最大値を記録し、その後は減少に向かっている。しかし、降雨がない日には検出下限以下の低い値が続くようになってからも、しばらくは降雨日には線量の上昇が見られることもわかる。4月下旬には降雨日以外はほとんど不検出となっている。これは、3月21−23日に雨とともに地表に落下した放射性物質の再飛散(土埃として舞い上がった粒子の落下)が、1ヵ月でほぼ収束したことを意味している。この結果からも、湿性沈着(雨に伴う降下)は乾性沈着(微粒子としての降下)よりもはるかに大きく、地表での放射線の分布は放射性微粒子の高濃度日における雨量分布で決まることが分かる。

原子力発電所等の施設のある地方自治体では、日常的に環境中での放射線量の測定を行っており、そのデータを公開している。関東地方では、このような施設が集中している茨城県では、測定ネットワークが充実している24)。このデータの一例を図13に示す。福島県でも、同様なネットワークがあり、緊急時対応のシステムも組み込まれていたが、今回の災害では、ほとんど機能しなかったようである。

図12 千葉県環境研究センター(市原市)での降下物(チリ、雨水、等)の核種分析結果 図13 茨城県放射線テレメータ・インターネット表示局データの一例26

チェルノブイリ原子力発電所の事故の際には、大気中に放出された放射性微粒子がわが国でも検出された。今回の福島の事故においても、アラスカ、カリフォルニア、ハワイ、など北半球の太平洋沿岸のほぼすべての地域で放射性物質が観測されている。とくにアメリカでは、環境保護庁(EPA)のRadNetシステムの測定局30)で、ガス状成分の放射性物質も捕集できるエアー・カートリッジ(活性炭入り)のデータも公開されているので、その一部を表10に示す。ここで、フィルター上に捕集される微粒子の放射線量を計測するエアー・フィルターのデータとガス状成分も吸着できるエアー・カートリッジのデータではかなりの差が見られる。なお、Cs-134は測定誤差が大きいことがコメント(脚注)に記されている。

福島から大気中に放出された放射性物質の流れは、世界各国の研究機関で解析されている。これらのシミュレーション結果27)を見ると、放射性物質は、初めに北太平洋をアリューシャン列島方面に流れ、さらにカリフォルニア沖を南下して、その後、北太平洋全域の拡散していったことが分かる。

表10 大気中放射性物質の観測データ

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